空回り

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もしもクラヴィスがプライベート・ライアンじゃなくてのうりんを観ていたら

リビングの日が射しこまない壁面は、テレビや映画を表示するために空けてあった。ぼくらはソファに腰掛けて、レッドブルを片手にだらだらと「のうりん」の一話、草壁ゆかがアイドルを引退して耕作の学校にやってくる二十三分をリピートして流し続けている。なぜかというと、この一話がのうりんでいちばん面白い部分であり、なによりニコニコチャンネルの無料配信部分はこの一話のみだったからだ。
 これでぼくらは三十だ。ぜんぜん大人になれていない。少なくともこのアメリカで消費サイクルに組みこまれているあいだは。
「なあ、あいつは地獄にいたのかな。あの戦場にいるときも、俺たちと訓練しているときも、基地でアニメを観ているときも」
「アニメを観るのはお前だけだ」
 ぼくがそう言うと、ウィリアムズは驚いたような顔になり、
「お前、アレックスのアニメ批評を読んだことがないのか」
 思わずウィリアムズをちらりと見やる。確かにそのとおりだ。
「あいつはけっこう、露悪的な視点をかましてくれてたんだぜ」
推理小説を読みたがってたお前さんに、けものフレンズを勧めた話かい」
「ちがうよ、そんなもんじゃない。アニメが無批判に差別を内面化してるとか、そういう冷笑だよ。ブルアカの先生やアイマスのプロデューサーが生徒、アイドルとセックスしていいわけないだろって熱弁には、リーランドも俺も腹を抱えて笑った」
 意外だった。アレックスはアニメを見ないか、見てせいぜい覇権もの程度だとばかり思っていた。
「ぼくは……あいつとはそういう話をしたことがなかった」
 ウィリアムズはぼくをしばらく見つめていた。田村ゆかりの歌声が部屋にこだましている。ややあって、ウィリアムズは空になったレッドブルの缶をゴミ箱に投げやった。十フィートは離れていたが、ホールインワンだった。